現実なんてこんなもの -2ページ目

家具のない新居は春の匂いがした

 一日遊んで、飲んで、さらに飲んだくれて、でろでろに酔っぱらって解散になった。楽しい春の週末。「ろれつが回ってないよ」と云われながらも、いっしょうけんめいおしゃべりしてた、学生みたいな夜。コンビニでペリエとお茶を買って、右に左にふらふらしながら、鍵をもらったばかりだという元同居人君の新居を見にいく。

 家具なんてひとつもない。3DKのアパート。明かりとエアコンだけは、作りつけらしかった。酔いにまかせて上がりこんだら、畳の上に平たくなってみる。窓の外は、公園の桜。始バスまでの3時間、ぼんやり新居の空気を嗅ぎながら、そのへんで眠る君をながめてた。引っ越しまで、もうちょっとだね。

 桜色の意識の中で、合鍵って言葉が耳に残る。いらないよ、鍵なんて。縛られるのは、いやだもの。実家の鍵だってもってない私は、だれの責任も取りたくない。仕事のほかには。

春は移動のシーズンだから

 引っ越し先が決まりそう、という話を聞いた。年下の君の同居人君から。みんなの仕事場に、誰よりも近いアパート。家賃と間取りを見比べると、「何か出る?」とききたくなるような掘り出し物件。管理会社さんとの面接がこれからだってきいたけど、うまく行くといいねぇ。

 それにつけても、最近は面接なんてあるんだ。ちょっと驚いた。そいや1年くらい前にペット可マンションに引っ越した友達も、大家さんの面接があったっていってたっけ。賃貸事情って10年前とは違うのね。

 うちの次の引っ越しは、はやくて2年後。でもたぶん、4年後が現実的。今の場所は好きだし、貯金もまだまだ足りないし。難点は、狭さだけだから。
 だがしかし。審査は今より厳しくなるのかなぁ。まぁ、すでに家族は年金受給者しかいないから、保証人=家族はありえないと思うけど……名義人の年齢って関係あったりするかしら。それに、正社員ではないしなぁ。保証会社を頼むかなぁ。むむむ。

 冒頭の同居人君は、両親まだ健在でお勤め。しかも公務員。まぁ大丈夫でしょう、が大方の予想。いいなぁ。

みんなどこでニュースをきいたの?

 SUICA&PASMO相互乗り入れ記念カードが買えなかったよう、と嘆いていたら、19日朝の上野駅発売分がある、という情報が。ほんとかしらと疑問に思いつつ、ここでチャンスを見送ったら一生後悔しそうだったので、とりあえず始発で向かう。

 上野に着いたのは、5時半。ちょうど発売開始のころ。すでに列が伸びていて、100人くらいいたかな……。人数をカウントする駅員さんを見て、並んでも駄目かも、と気分が沈む。とはいえ、駄目もとできたんだもの、と気を取り直してひたすら待つ。

 はたして指定時刻に販売は開始され、どんどん前に進んでく。手際いいこと、この上なし。さすが天下の上野駅。わたしが先頭にたどりついたのが5時45分。……無事、購入できました。ふぅ。

 よかったー、とペンギン&ロボを手に深呼吸して、振り向いたら列が伸びてたよ。みんなみんな、買えてるといいな。

だから始発で出かけたかったのに

いやいや、今回の限定Suica&Pasmoは敗北。やっぱり始発で行くか、夜通し街にいなきゃ無理だったんだよぅ。合わせて22万枚だから大丈夫だと思ってた。甘かった。うーんうーん。どうしよう……オークション?

朝が早いつもりの日は、人を呼んじゃ駄目だよね、と改めて確認。合鍵も渡していないきみを置き去りに、ひとり街にでれば良かった。しまったー。欲しかったのに。ペンギンとロボットくんのコラボカード。

きみが近くにいるのは、あと僅か。そう思うと、ついつい甘くなる。家が離れたら、きっと今みたいには、もう逢えない。だから、いっぱい覚えておくんだ。きみの声を、きみの感触を、その髪のやわらかさを。もう、なくしても大丈夫なように。

遠距離って、何マイル?

いろいろあって、年下のきみと同居人くんが別居することになった。春の契約更新を機に、それぞれの場所を探すと決意したらしい。

実家が他県の同居人くんは、今の部屋からそう離れてないエリアで新居を検討してる。仕事が忙しくて、思うように不動産屋さんめぐりが進まなくて、ちょっと苛つき気味。あと一ヶ月半、されど50日くらい、だものね。一年でもっとも単身者向け物件が動く、この時期に。幸運をいのるばかり。

問題なのは、年下のきみだ。いったん実家に戻るんだけど、これが微妙に遠いんだよね。電車で1時間半の距離。今までみたいに会えなくなる、きっと。仕事が深夜に終わって、さぁごはんって頃にきみの終電が出る。土日なんて関係ない職種の私。電話なら声がとどく? ふたりで会えない日が、どれだけ続いても信じていられると思う?

昔、まだ子供だった時代に。電車で2時間かかる街から通っていた私は、遠距離を理由にあきらめられた、なんて話もあったっけ。今ならなんとかなる? ……あんま、自信はないけれど。

車があればなぁ。ううむ。

天皇誕生日が土曜日だとちょっと損した気がする週末

 いっそ、エンペラーの誕生を祝って、前後一週間くらいお休みというのはどうかしら。現任のバースディだけで、かまわないから。

 仕事が忙しくなってくると、どうしても歪みがでてくる。気分転換しなきゃ、てきどに心を休めなきゃ、と思うけど、時間も資金も空間もなきゃ、そうそうう まく進まない。そんなときはどうしても、身近な人から順にきつくあたりがち。同じ建物に、いなければいいのにね。なくしたくない、近しい人は。

ー*ー
 iTunes Storeに、広瀬香美のCMコレクションが入ってた。ぽつり、ぽつりとダウンロードして、仕事中のBGM。音に引かれて記憶が戻る。あれは7年前の冬。 スキー宿の露天風呂で、ぼんやり見上げた四角い空。舞いおちる雪。絶対忘れない、と願った。今でも、鮮やかに思い出す。春には子供の生まれる人と出かけ た、一度きりの旅。

 こないだ、ひさしぶりに見かけたよ。日曜日の繁華街。めずらしく家族そろって、親の顔のきみ。どこにでもある平凡なお休み、というしあわせを引き連れて。いつまでも、元気でね。

ー*ー
 そんなことを書いていたら、当の本人から電話がかかってきた。ほかの友達を探すtel。偶然の妙。しばらくぶりに聞く声は変わらず、でも、切なさは微塵も伝わらなかった。もう、ただの友達でしかないきみ。sigh.

カタログギフトは選べない

 走り回るのは「師」だけじゃないぜ、というわけで、なんだかやたらと慌ただしい今月。無理矢理半日休みを取って、自室をちょいちょい掃除した。棚の埃をはらって、ガスレンジを磨く。積み上がった書類やら雑誌やらチラシの束は、ひとつひとつ眺めて、いるものだけしまい込む。

 紙に埋もれた白っぽい花の表紙は、友達の結婚式でもらったカタログギフトだ。そういやすっかり忘れてた。申し込み期限はまだだったよね……と思いつつ、ページをめくる。どれかに決めてハガキを出せば、このカタログだって片付けられる。ええと、ええと、どれにしよう。悩みはじめて1時間。だんだん、かなしくなってきた。

 なんとなれば、どれも一長一短で、選べないんだ。ひとつだけなんて。どれもそれなりに魅力的で、でも、他の何かを捨ててまで、欲しいものじゃない。そうしていまだに独身の女に、なにが決められるというだろう。

 今日のところは時間切れ。とりあえず、カタログは放りだして眠りにつくよ。

眠ると肩がこる

 仕事で泊まりこみが続いて、昼と夜の境い目が曖昧になるこのごろ。今朝ひさしぶりに自宅に帰って、布団で寝たら、妙に肩が痛む。なんか、首から肩にかけて、筋が張ってるかんじ。すっかり仕事場椅子寝に慣れたのかと、ひっそりため息をつく。

 そもそも、忙しくて荒れてる自宅に帰ってくつろげる、と思うほうが、きっとまちがい。一人暮らしじゃ自分が脱ぎ捨てたコートもそのまま。出がけになぎ倒したシリアルの箱もそのまま。全自動のスイッチを入れたあと眠りに落ちて、干せずに放置された洗濯物たちも、なにもかもそのままで。

 そんな日々を繰り返してる間に、同居人くんのバースディは何事もなく過ぎた。ごはんでも食べにいこう、って話もあったんだけど、ね。多忙な時期は、そうして平穏に過ぎていく。なにか起きるのは、決まって一段落した週末。

同時には空に昇らぬ星座のように

 夏はあまり元気がなくて、ファッションの愉しみも感じられない、という年下の君。日が短くなるにつれ、どんどん勢いを増すかと思いきや、今年はどうにも低調模様。それでも会いたい、いとしいと、云ってくれる、のに。

 ウールもフリースも苦手で、冬でもTシャツにミニスカートに綿のコートで過ごす私。仕事はともかく、プライベートではあんまり動きたくない。真冬には、スキーウェアくらいしか着られる服がないから。

 そんな我々。遠慮と努力と衝動で乗り切れた3年が過ぎ、4度目の冬がくる。今年も無事に、超えられるだろうか。すでに、夕方から会いに出かけるのもおっくうになりがちな日々。会いたくないわけじゃない。ただ、冬場は狩りをしないワニのように、充電だけで生きていけそうな気がする、それだけで。

 とかいいながら、同居人くんとの通話時間のほうが長いのはどうしたものか。規則正しい生活の、会社員の彼。ひどく調子を崩すことなく、たんたんと距離を詰めてくる。「おやすみ、らぁぶ」と彼氏君の電話を切ったのち、朝まで続く次のtel。たあいもないこと。ちょっとした相談。

 誰と出かけるのも面倒。頭をかかえるわたしは、どんどん丸くなる。大きな木のうろの中、しばらく冬眠していたい。

眠れぬ夜のワンルーム

 まだ時差ぼけが抜けなくて、こんな時間に目が冴える。夜白む窓を眺めては、いかに出張中の生活が規則正しかったかを知る。旅立つ前は、さぼっていた筈の体内時計が、まだ宵の口だと主張する。だーめーだー。

 外はぼんやり明るくて、だけど文庫を読むには灯をつけたい、そんな頃には、なぜだか引っ越し気分が高まる。中途半端な光の加減が、部屋の狭さを照らし出すのだ、きっと。10年目の我が部屋。14平米のワンルーム。

 ここじゃだめ、な訳じゃない。もうちょっとだけ、広いところに住んでみたいだけ。そんな気持ちで探しているせいか、次の住処はなかなか見つからない。今年の夏は、落雷がとても綺麗だった。広い窓から見える眺めは、緑に満ちていつも安らぐ。もう少し、あと少しだけ、今の部屋が広ければ。

 そうこうするうち、光は朝の色に変わる。カーテンを開ければ、どこまでも広がる空。日の出前の、やわらかな暖色から寒色へのグラデーション。元気な烏の声。この明け方の空気が好き。

 このままずっと、ここに住むのかもしれない……と思う朝。心の何処かで、警笛が鳴りつづいている気がした。