家具のない新居は春の匂いがした | 現実なんてこんなもの

家具のない新居は春の匂いがした

 一日遊んで、飲んで、さらに飲んだくれて、でろでろに酔っぱらって解散になった。楽しい春の週末。「ろれつが回ってないよ」と云われながらも、いっしょうけんめいおしゃべりしてた、学生みたいな夜。コンビニでペリエとお茶を買って、右に左にふらふらしながら、鍵をもらったばかりだという元同居人君の新居を見にいく。

 家具なんてひとつもない。3DKのアパート。明かりとエアコンだけは、作りつけらしかった。酔いにまかせて上がりこんだら、畳の上に平たくなってみる。窓の外は、公園の桜。始バスまでの3時間、ぼんやり新居の空気を嗅ぎながら、そのへんで眠る君をながめてた。引っ越しまで、もうちょっとだね。

 桜色の意識の中で、合鍵って言葉が耳に残る。いらないよ、鍵なんて。縛られるのは、いやだもの。実家の鍵だってもってない私は、だれの責任も取りたくない。仕事のほかには。