こおろぎの音の聞こえる夜 | 現実なんてこんなもの

こおろぎの音の聞こえる夜

 たぶん、部屋が狭いのがいけないんだ。そう考えれば、多少なりとも見通しは明るい。

 いつからか、人が居る日は眠れなくなった。テレビ見てたり、おしゃべりしたりしている間はいいけれど、灯りを消して休む段になるとなんだか胸がくるしくなる。腕まくらにあこがれて、昔はよくねだった筈だけど、今はまったく心惹かれない。薄暗がりのなかで静かな寝息が聞こえるころ、わたしは水槽につめこまれすぎた金魚のように、息がうまく吸えずにぱくぱく口を開けたり閉めたりしてもがく。

 遡って思い出してみると、そういや歴代の隣の人はいつも寝不足だったっけ。寝てないの、って聞くと、たいていみんな頷いた。眠れない、って云ってた気がする。そうか、誰もが起きていたから、自分は何不自由なくスイッチを落とせていたんだ。

 今の部屋は、とても狭いワンルーム。シングルの布団1客、まともに敷くことができずにちょいと折り返す床面積のなさ。そんな場所でも、ぐったりつかれた年下のきみは、安心した顔でのびたり縮んだりまるまったりするから、わたしはその寝顔をときおり見ながら、部屋の隅に座りこむ。いたむ胸を押さえて、つぶれるのどを暖めて。いっしょにぐーすか眠りたい。そんなささやかな夢は、なぜかなわないんだろう。