徹夜明けの街は海のそこ | 現実なんてこんなもの

徹夜明けの街は海のそこ

 明け方まではたらいて、どんよりちょっと仮眠して、通勤時間のはじまりがけにいったん帰る。ほどよい湿度の9月の空は、つめたい秋の海のよう。砂地のエイになった気分で、ひらべったく駅にむかう。

 駅前のバスターミナルには、ほうぼうにまだ眠そうな人の列。そのうちのひとつに並んで、こちらも次の便をまつ。主要路線をはずれたうちのバスは、一本逃すと20分は次がこない。ぼんやりたたずむ自分の隣を、他路線のバスがゆったり通り過ぎていく。何台も、何台も。

 くじらって、ちょうどバスくらいの大きさかな。

 いちどそう思ったら、どれもこれも、クジラにしか見えなくなった。ロータリーをくるりと回って、方々に泳いでいくクジラたち。あいだを縫って、小さい魚たちも過ぎてゆく。潮の香り。緑がかった泡だつ水とやわらかな太陽。うちのクジラはまだかいな。

 眠い朝は、ときどき街にフィルタがかかる。今日は海。